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《再編層 31》

小野 環
Ono Tamaki

2020

h455 w333

油彩、綿布、パネル

小口 無意識の表面
多くの場合、本は観る対象ではなく、読む対象であり、その背表紙は部屋のインテリア(近年は遠隔通話や会議画面の壁紙) として機能する場面もあるが、その裏の小口(こぐち=断面)はあまり人目に触れない。私が近年制作している《再編層》は、積み重ねた本を描いた絵画作品群だが、とりわけ最近は小口自体に焦点を当て描いている。小口は、PC やスマートフォン、タブレットで失われた情報の質量を物理的に示すものであり、焼けた紙には経過した時間の厚みも刻印されている。そこには本文の内容はもちろん、編集意図やレイアウトでさえ、ほとんど見る事ができないが、思いのほか複雑な表情がある。実際、小さな文庫本でさえ、100枚以上もの紙が積み重なってできている。拡大すると、繊細な陰影の集積でできている表面には裁ち落とし印刷の印刷ページやインデックスのインク、黴や汚れなど、無数の平行線の中に 予想できない事件が含まれている。そのランダムに見える規則性のある縞模様は、近年撮影された高解像度の土星の輪の拡大写真を想起させた。引力と斥力の緊張によって生み出された無数の粒子の配列の反射する光によって出現する縞模様の壮麗さに似ていると感じた瞬間があったのだ。普段は対面しない小口、そこには本そのものの無意識が滲み出ているようでもあり、その表面と自分の間に絵を置いて対峙した時、初めて見えてくるものがある。

¥198,000

小野 環 Ono Tamaki

北海道出身の美術家。現在尾道を拠点に活動。絵画、インスタレーションの制作を行
うほかアーティスト・イン・レジデンス「AIR Onomichi」を企画。現在、尾道市立大
学美術学科教授。NPO 法人尾道空き家再生プロジェクト副代表。1998 年東京藝術大
学大学院絵画(油画)専攻修了。主な展覧会にVOCA 展 (2004年) 、「複数形の世界のは
じまりに」(2018年), 「岡本太郎現代芸術賞」展(2021年)「再編」(2021年)がある。
小林和作賞、第24回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)特別賞受賞。
街や、家、路上など日常空間で出会う事物の観察と考察を踏まえ、作品制作を行って
いる。全体と部分、個と集合、人為と自然、秩序とカオスの間にあるグレーゾーンの
豊饒さを絵画やインスタレーション作品として表現。近年は書籍を作品素材として用
い、再構成した立体作品の制作も行う。美術作家・三上清仁とのユニット「もうひと
り」としても活動。街の新陳代謝に注目した創作活動を行なっている。また、AIR

Onomichi や空き家再生プロジェクトの活動を起点に様々な文化的・歴史的な側面に注
目したリサーチも展開。

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