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Many Sleepless Nights
稲川 豊
Inagawa Yutaka
2013
h605 w580
Oil on Canvas, satin fabric sculpture
「「Many Sleepless Night」(2013)は、デジタルと物質的な創作物の間の独特なロジックと領域往来を概念的に体現する。正方形のペインティングは、変容のログを概念的に記録する。2013年に制作され、2022年に再び“完成”したこの作品は、創作行為における“完成と固定化”の構造を問い直し、直線的な時系列内での逆説的な二つの“完成”地点を組み込んでいる。この物理的ペインティングにおける複数の終点というアイディアは、デジタル領域特有の絶え間ない編集の可能性からインスピレーションを得ている。
アーティスト自身の膨大なデジタル・アーカイブから選び出した画像を組み合わせて、ペインティングの中心としてノンバイナリなデジタル・モンタージュを形成する。使用されるすべての写真は、彼の日常生活のスナップショット、個人的なタイムライン上の瞬間を捉えている。これらのデジタル化された断片は再構築され、統合され、一つのデジタル存在内で複数のタイムラインを生成する。2013年の初めの“完成”は、このデジタルの構造を反映するものとして特定された。しかしそれから10年後、2013年のキャンバスに取り込まれたデジタルの足跡は、元のデジタルエッセンスを失ったように映り、130×130cmから小さくトリミングされた。このペインティングは、そのデジタルイメージの大部分を放棄することで、ペインティングの領域内だけで体現可能な新しいエッセンスを見つけた。
このコンセプチュアルなフレームワークを補完するため、「Many Sleepless Night」には2つのソフト・スカルプチャーも展示されており、インスタレーションの中でその意味を深化している。ここでは、ペインティングの喚起する質感、クロップされた半抽象的なイメージの謎、そしてその独特の引力が、物理的形態へと変換されている。トリミングされたペインティングとそれに共鳴するスカルプチャーは、物質からデジタルへ、そしてデジタルの本質からペインティングの豊かな語彙へと移行しながら、各領域間で揺れ動き、非論理的な変容を持つ謎めいた存在として表現されている。」
稲川 豊 Inagawa Yutaka
(1974年東京生まれ、尾道在住) 2004年にチェルシー・カレッジ・オブ・アーツ(ロンドン大学)でMAファインアートを修了し、1997年に東京藝術大学絵画科油画専攻を卒業。現在、尾道市立大学美術学科准教授。稲川の作品は、対峙する者にハイパー・デジタル・ワールドに存在する不明瞭で可変性の高いモジュールの数々を提示する。物理的な実在とデジタルの虚のあり方を操作することは、彼のアート・プラクティス(芸術実践)の中核をなしている。創造的プロセスにおける可謬性や多義性を祝福し、デジタル時代におけるノン・デジタル・ネイティブの視点を反映した“あちら側”との概念的関わりを生み出す。
実験性の高いミニラボ的インターナショナル・アートプロジェクト「オンリーコネクト」(2015-2019)、Floating Urban Slime/Sublime (2017-)のディレクターを務め、数々の実験的展覧会を手がける。キュレーターYing Kwokとのオンライン・プロジェクト「Say to Day」(2020-2021)をはじめ、「Speak Spindle つむ・くち」(個展)Comma Space, シンガポール (2023)、「Fluxosphere」(個展)UUH OOH, 香港 (2023)、「符と思う|eASY mECHAISM」(個展)MOU、尾道市立大学美術館(2023)、「Another Pair of Eyes」(アーティスト・キュレーターとして企画、出品)、Duddelle’s, 香港(2019)、「Only Connect Osaka」(アーティスト・キュレーターとして企画、出品)、クリエイティブセンター大阪、大阪 (2019)、「I say Yesterday, You Hear Tomorrow. Vision from Japan」 (企画展), Gallerie delle Prigioni, トレヴィーゾ, イタリア (2018)、「OTAK JEPUN」 Lorong Kekabu、クアラルンプール(2016)、「The Invasion of Cyberspace」Unit 24 Gallery、ロンドン(2014-15)、「Sensory Cocktails」Gallery Zandari、ソウル(2009)、「Yutaka Inagawa and Adam King」 Pippy Houldsworth Gallery、ロンドン(2009)、Glass Magazineとの誌面コラボレーション(2015)など、様々な国/都市で作品発表やプロジェクトを行う。」